眠れる森の「いばら姫」
はじめて森にわけ入ったとき、誰かを待っていたかのように、古い洋館が佇んでいました。
およそ100年前…大正時代の実業家・田中銀之助の別荘として建てられた、西洋式の邸宅。1階の大広間には石造りの暖炉があり、2階の小さな暖炉とつながっていました。浅間石を積み上げた重厚な煙突からは、あたたかな煙が昇っていたことでしょう。
やがて華やかな時代は終わり、主なき館はおばけ屋敷のような有様に。やむなく解体へとすすむさなかに、「取り壊してはならない」という〈直感〉を得ます。
大規模な修復を経て、洋館はよみがえりました。栗の木が贅沢に使われた褐色の床。ほんのりとバラ色に染まる壁。真っ白なフレームが美しい縦長の窓。螺旋を描くように設えらえた階段…それはまるで、100年の眠りから覚めた「いばら姫」のようでした。