ルオムログ

本読みの小旅行039

佐野洋子の「なに食ってんだ」

佐野洋子/編:オフィス・ジロチョー(NHK出版)

佐野洋子の「なに食ってんだ」

ルオムの森に行ったら、おむすびブックスが「食いしんぼう」をテーマに本を集めていた。
欲しい本(「パンと野いちご」)に目星をつけておいて、図書館の本も漁った。
おむすびの選書に刺激されて、食べ物の本に目が行ってしまう。

ブラブラと見ている間に、太めの背表紙に「なに食ってんだ」の文字が見えた。よく見たら【佐野洋子の「なに食ってんだ」】という本だった。

食べること(口に入れたものも含む)を通して編みなおした、佐野洋子事典。
数えるのも面倒なほど、たくさんの著作から引用している。
しかも、高山なおみが帯を書き、広瀬弦がレシピを再現したのだから、読まずにはおれない。

佐野洋子が亡くなって、もうすぐ8年が経つ。
感動するような話でもないし、自慢するような関係性があったわけではないが、年に4~5回くらいのペースでご飯をもらっていた。それが数年続いた。何だか野良猫のようだと思ったのを覚えている。

「アンタ、もうご飯食べちゃった?帰りにちょっと寄りなさいよ」

時折、思い出したように電話が掛かってきて、夕飯を御馳走になることがあった。独り身だった私に断る理由はなく、ましてや料理上手な人からの誘いに抗えるはずもない。(ついでに言うと、いいからとにかく来なさいよというニュアンスで、用件が終わるとすぐに切れるため、こちらの都合は関係ない)

ある日は中華おこわみたいな混ぜご飯、また別の日はピーナツダレの冷やし中華、干しブドウの入ったかぼちゃサラダのサンドイッチだったりした。
隠し味なのか、火加減なのか、まじないなのか、どこかミステリアスな仕掛けがあって、出てくるものはどれも美味かった。
ヨーコさんが作る料理は、ヨーコさんみたいだった。

もくもくと食べる私。
食べる私を眺めるヨーコさん。
食卓を囲むふたりから少し離れて、フネ(猫)が寝入る。

饒舌な日はマシンガントークを聞いたが、煙草をくゆらしているだけの夜もあり、長居する日もあれば、立ち食い蕎麦のように食べてすぐ帰ることもあった。滞在時間はヨーコさんの気分次第だ。

そういえば、呼んでくれた理由を尋ねたことはない。
長い夜の暇つぶしだったのか。
いつも腹を空かせている娘を哀れんだのか。
ただ単に作りすぎたのか。
静かな家の中で、時にはテレビじゃない、人の声を聞きたくなったのか。
もしかしたら、それら全部が入り混じって化学変化を起こし、全然違う理由だったか。
面白い話題なんて持ってない、ご飯を食べるだけの娘を呼び出し、どうでもいい話をして、夜の隙間を埋めたんだろうか。

もし、まだ生きていたとしても、聞くことはない気がする。

ヨーコさん家で食べさせてもらったものは、本には出てこなかった。
ある日の帰りしな「今度はレバーペースト食べさせてあげる」と言われたが、実現しなかった(非常に悔しい)。

なにかチャンスみたいなものがあったら、図々しくもレバーペーストをリクエストする電話を掛けたい。

今日の言の葉

ものを食べるという事が作り出す人間のつながりとしがらみを作るところ

本の冒頭に『ふつうがえらい』からの抜粋があり、台所は「ものを食べるという事が作り出す人間のつながりとしがらみを作るところ」書かれていた。

食べ物単体で語られる項よりも、ケチな友人や息子との関係の中で出てくる食べ物の方が、ひときわ印象が濃い。みんながそうとは限らないが、ヨーコさんにおいては、食べることもしゃべることも好きで、人も好きだったんだろう。

by ゆうき2018.10.06

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